浮世絵に描かれた老舗で食す -王子扇屋-

浮世絵グルメ 王子扇屋

江戸時代から明治時代にかけて王子の音無川沿いには、かつて扇屋と海老屋という料亭が建っていた。両店とも浮世絵に描かれた有名店だが、扇屋だけが現存している。今回は浮世絵グルメと称して、浮世絵に描かれた扇屋を訪れ、慣れない食レポを敢行する。

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王子扇屋とは

王子扇屋は現在、王子駅近くにあるテイクアウト専門の玉子焼きのお店として知られているが、箱詰めの厚焼玉子に付属していたお店の沿革を説明した紙には以下の記載がある。

王子扇屋の沿革扇屋は慶安元年三代将軍家光の時代に初代弥左ェ門が農業のかたわら「農間煮売商人」の看板をかけ掛茶屋をして居たのが始まりでそれから当主で十五代となります。(中略)

文化文政王子稲荷社の最も栄えし頃当店も飛鳥山の桜、滝の川の紅葉などと共に江戸ッ子の遊山行楽の場所として大いに繁栄し宏壮の店舗となりました。(中略)

「寝ぬ夜のすさび」と云う古書に料理屋の折詰は扇屋より始まれりと書かれてあり面白いことには有名な落語「王子の狐」外いろ〱の話題に扇屋名物玉子の釜焼折詰に江戸時代のこと故硫黄のついた「つけ木」をさし添えて狐に化されないまじないにしたと云う事であります。

明治七、八年に明治大帝岩淵一帯機動演習と印刷局抄紙部工場に行幸あらせられた時と二回御休息の栄を賜はり昭和戦争後あすか山と権現山との谷間を流る音無川を庭園の内におさめ眺望都下随一の現在の店舗に移しました。(後略)

記載のなかで注目すべきは、江戸幕府三代将軍徳川家光の頃から始まったという長い歴史、料理屋の折詰の元祖であること、現在は出店としての店舗を構える扇屋だが、かつては料亭として明治天皇が来店するほど繁盛していたということだ。

王子の料理屋(1859年、ピエール・ロシェ撮影:北区飛鳥山博物館蔵)
王子の料理屋(1859年、ピエール・ロシェ撮影:北区飛鳥山博物館蔵)

ちなみに東京都北区が撮影された現存する最古の写真に写っているのは、この料亭時代の扇屋である(画像参照)。川沿いに建つ大きな建物が当時の繁栄ぶりをうかがわせる。近くには飛鳥山の桜、滝野川の紅葉、王子稲荷と観光スポットがあり、行楽の地として栄えたのだろう。

王子扇屋が描かれた浮世絵

観光スポットで有名店とあって、現存する浮世絵のなかにも扇屋が描かれているものがいくつかある。今回は豊原国周が描き、明治十一年に摺られた「開化三十六会席 王子扇屋」を取り上げる。

開化三十六会席 王子扇屋
開化三十六会席 王子扇屋

芸妓と思われる住吉町の小松と小ふきという二人の女性が料亭時代の王子扇屋で雨上がりの虹を観ている姿が描かれている。小松が持つ団扇に描かれているのは、少し形が違うが扇屋の紋だろう。紅葉も色づき始めているため、季節は夏の終わりから秋の始まりだろうか?

団扇拡大図
団扇拡大図
扇屋の紋
扇屋の紋

周りの建物が下に見えることから最上階の三階から外を眺めていると推察される。しかし現存する明治中期の扇屋の写真と比べると、柵や軒が実際よりも洋風な建物になっている。おそらく豊原国周が扇屋や滝野川の紅葉について人から聞いた評判から想像し、タイトルである「開化三十六会席」に合わせて【脚色】をして描いたものだろう(豊原国周については関連記事を参照)。

王子の料理屋・扇屋(明治中期撮影:北区飛鳥山博物館蔵)
王子の料理屋・扇屋(明治中期撮影:北区飛鳥山博物館蔵)

コロナ禍の影響

王子扇屋の店舗
王子扇屋の店舗

王子稲荷の参拝でにぎわう初午の日を避け、その翌日に扇屋を訪れた。扇屋で前日の初午の人出を聞くと、今年は購入の列もなく買える状態だったとか。昨年、初午の日に訪問した際は30分ほど並んでようやく買えた状態だったが、今年(2021年)は緊急事態宣言下で初午の日の主要なお客さんであるご年配の方が減ったことが大きいようだ。

この後、王子稲荷にお参りした際には、初午の時に神社前の通りに並ぶ出店が150店から85店に減ったという話も聞いた。大河ドラマ「青天を衝け」の主人公・渋沢栄一のゆかりの地でもある王子だが、本来のにぎわいを取り戻すにはもう少し時間がかかりそうだ。

王子扇屋の玉子焼きを実食

レシピが一子相伝の釜焼玉子(要予約)はおそらく食べきれる量ではないため、お仲間を連れだって訪問する時の楽しみとし、今回は鶏のひき肉と三つ葉の入った親子玉子と箱詰めの厚焼玉子(通常の厚焼玉子の2倍の大きさ)を購入。家に持ち帰って食べることにした。消費期限は、要冷蔵で三日間。一人でも食べきれない量ではないだろう。

厚焼玉子

箱詰めの厚焼き玉子

まずは箱詰めされた厚焼玉子の開封の儀。紐で結ばれた折詰めのこの感じ、サザエさんで波平さんやマスオさんが赤い顔して持ち帰っているあの形である。紐を解いて中をのぞくとド迫力の大きい黄色が迫ってくる。そして、食欲をそそる甘い香りがほんのりと。

カレー皿に乗せきれない大きさ(NIVEAの青缶は大きさ比較用)。さっそく切り分けて実食。甘めのダシが効いた、お弁当に入ってたら気持ちがたかぶる味。ちょうどいい柔らかさがさらに箸を進ませる。いつの間にか半分以上食べてしまった…。

開封した厚焼玉子
開封した厚焼玉子
カレー皿からはみ出る大きさ
カレー皿からはみ出る大きさ

親子玉子

あくる日、今度は親子玉子を実食。甘めのダシが効いた玉子の風味はそのままに鶏のひき肉と三つ葉が食感に変化を与える。甘めの味付けではあるが、これは何かしらのスープに入れてもいいかもしれないなどと考えていたら、モリモリと完食してしまい試す機会を失ったのであった…。

親子玉子を実食
親子玉子を実食

前述したが、王子は大河ドラマ「青天を衝け」の主役・渋沢栄一のなじみの地。今回は時間の都合上、渋沢史料館を訪れることができなかったため、いつか再訪して扇屋の玉子焼きをまた食べたいと思う。

王子扇屋 営業情報

営業時間 13:00から19:00まで
水曜定休日

公式サイト
https://www.ouji-ougiya.jp/index.html

※こうした浮世絵に描かれて現存しているお店を今後いくつか紹介していくつもりです。他にもこんな浮世絵であのお店が描かれているという情報がございましたら、コメント等でお寄せいただければ幸いです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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参考資料

『古写真はわたしたちに何を伝えるのか?』北区飛鳥山博物館

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