『東海道五十三次』など風景画の浮世絵で江戸の世を席巻した歌川広重。あまり知られていないが「歌川広重」は五代目まで続いていた。困窮から海外輸出用の茶箱に貼り付けた宣伝用の浮世絵まで手がけて「茶箱広重」と呼ばれることになった二代歌川広重。今回はそんな彼を主人公にした漫画「茶箱広重」をご紹介。
目次
「茶箱広重」基本情報
著者 | 一ノ関圭 |
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出版社 | 小学館文庫 |
掲載雑誌 | ビッグコミック ’81年1月10日号~’81年4月10日号 |
一ノ関圭作品は大変少ない。現在では今回紹介する漫画「茶箱広重」を含む作品集『茶箱広重』、デビュー作「らんぷの下」や明治期のヌードモデルを描いた「裸のお百」が収録された作品集『らんぷの下』、そして江戸後期の歌舞伎界を描いた『鼻紙写楽』の3つのみ(そろえるなら今!)。
「茶箱広重」の時代背景
「豊国にかほ(似顔)、国芳むしや(武者)、広重めいしよ(名所)」と持てはやされた江戸後期の浮世絵の三名人。しかし、三代歌川豊国は年とともに衰えが目立ち、歌川国芳は病でふせっていた。そんな折に歌川広重が亡くなり、世代交代がいよいよ始まろうとしていた。
異国人が降り立つようになった横浜はさびれた漁村から様変わり。吉原をマネてできた遊廓ができるまで街はにぎわいを見せ、なかでも豪華さを誇った「岩亀楼」は浮世絵に数多く描かれた。そんななか異国文化を描いた浮世絵「横浜絵」が流行し、三代豊国門下から五雲亭貞秀、国芳門下から歌川芳員(よしかず)、国芳から破門されて独立した歌川芳虎など新世代の浮世絵師が活躍を見せるようになっていた。
一方、自らの絵画道をきわめることに熱心で弟子の育成には無頓着だった歌川広重。疫病コロリ(※コレラのこと)が流行るなかで広重は亡くなり、弟子の重宣が二代広重を継ぐことになったが……
登場人物
作品中では特に「キャラクター紹介」がないため、あらかじめ登場人物を整理。セリフで名前だけ出てくる浮世絵師も数多く存在するが、ここでは実際に登場する主な人物について紹介。
歌川広重
歌川重宣
お崑
おかや
鳴戸屋正蔵
三代歌川豊国
歌川重歳
歌川重清
寅吉
兵吉
香林堂
縞屋の美吉
みどころ
圧倒的な画力
劇画で描かれた物語はとにかく画力がすごい。登場人物の着物の柄から背景、ストーリー上出てくる浮世絵などその全てが繊細そのもの。
浮世絵研究家も舌を巻く確かな専門性
フィクションの形を借りながら、かなりの部分を史実をもとに描かれた本作。小説家で浮世絵研究家でもある高橋克彦は一ノ関圭作品集『茶箱広重』のあとがきで、「茶箱広重」に触れた驚きを次のように書いている。
一ノ関圭さんがこの作品を描くのにどれだけの時間を資料蒐集に費やしたか……恐らく広重の家の設計図まで拵えて取り掛かったに違いない。(中略)それにしても……漫画でここまでやられてしまえば、ますます小説の存在理由が薄くなる。
主人公の苦悩
一ノ関圭作品は主人公が苦悩する物語が多いが、「茶箱広重」では、二代目広重という重責を背負うことになった主人公の苦悩が色濃く描かれている。
自らの筆の遅さや先代の呪縛に思い悩み、
広重の名跡を継ぐことができなかった兄弟弟子たちからは陰口を言われ、
流行し始めて模倣が横行している「横浜絵」の道を模索すべきか気持ちが揺れる。
週刊少年ジャンプなら「友情・努力・勝利」でスカッと乗り越えていく場面だが、そう簡単にいかないのは青年漫画ならでは。最終的に主人公が二代広重という重責とどう向き合うことになるのかは本編をご覧あれ。
複雑な人間模様
他の登場人物たちもそれぞれの思惑で動き、主人公をいっそう悩ます事態に。「広重」というブランド商売を続けたいがために主人公に広重の名を継がせる鳴正。
新たに流行している「横浜絵」を描かせて主人公を自分のところに取り込みたい香林堂。
先代の未亡人お崑に取り入り、広重の名跡を狙う重歳。
そしてお崑、おかや、美吉という女たちと主人公を巡る愛憎劇。
著者が女性なだけあってか女性の心理描写は実に巧み。漫画を読んでいるにもかかわらず、時代小説を読んでいるような感覚を味わえる。
まとめ
浮世絵好き・歴史好きの好奇心が満たされるばかりでなく、前提知識なくとも登場人物の人間模様をたどっていくだけで味わい深い作品。歌川広重好きには絶対に一読して欲しい一冊。その他の一ノ関圭作品も必見!
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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